オリンピック物語・水野智佳子編その2

―それでは、ソウル五輪での思い出を教えてください。

水野:ソウルでは、鈴木大地選手が背泳で金メダルを取っていますよね。彼が金メダルを取るとチームの中ではみんなが、そう思っていたんです。彼はコーチとのマンツーマンで練習をしています。プールがあって、メインコースはみんなで練習してるんですが、彼だけ本来使用しないすき間のコースを使って練習しているんですね。それも、金メダルを取るための練習をしているんです。当時ライバルとして金を争っていたのがアメリカの選手です。その選手は繊細な性格です。記録からすれば彼の方が上なのはわかっていたんです。ですから、決勝戦では彼に自分の泳ぎをさせないような動揺を与えることができれば、金メダルの可能性が出てくると戦略を練っていました。動揺を誘うためはバサロ(※)でどこまで先に進めていくか?何回キックをして浮上するかっていうことを、ストップウォッチ計って作戦を考えたんですね。スタートから浮上するときにバサロでライバルよりも先の地点で浮上してくれば、相手は驚いて焦ってしまうと踏んだんです。自分の泳ぎのペースを守れずにいたので最後の最後で失速したわけです。でも最初からこの作戦をすんなり立てていたわけではありません。恐らく決勝戦直前までコーチ2人で作戦会議はつづけていたと思います。なぜなら、バサロで長く潜っているということは、自分にとってもバテるというリスクが伴います。それでも、「金メダル」を取るにはこの作戦しかないということだったのでしょう。そして見事に作戦勝ちしたわけです。
(※)バサロとは背泳ぎでの潜水泳法のこと。水面近くを進行する際に生じる抵抗を軽減あるいは無くすことで速く泳げる。

 ―ほかの方々も作戦を立てて試合に臨むんですか?

水野:いえいえ、私のようなモノは自己ベストを更新しても、決勝に残れるかどうかというラインですので、「とにかく早く泳げ」という練習です(笑)。作戦とかっていうレベルではなかったです。

―最後に水野さんにとって、オリンピックってなんですか?

水野:期待に反した答えだと思うんですが、「数ある国際大会の一つ」ととらえています。私は、試合で海外に行きたいって、強く思っていました。水泳をやっていたおかけで、海外の試合に参加させてもらいました。実際に行った国は、アメリカ・カナダ・中国・韓国・オーストラリア・ユーゴスラビア・メキシコ・エクアドルなどです。私は、練習よりも試合が好きでしたので、海外での試合はとてもやる気になりました。

 どうもありがとうございました。

二度のオリンピック参加経験をお持ちの水野智佳子様(旧姓:中森智佳子様)に今回はインタビュー型式の取材をしてみました。ゆっくりお話を聞いてみると、経験者の貫録というか、深いものを感じました。現在は水泳を教えたりはしていないそうですが、学校などで見本として泳いだりはしている水野さん、神保町の街なかで見かけたら、声をかけてみてください。(今回の取材中の写真は本人の希望により撮りませんでしたが、スイミングマガジンなどで当時の写真が載っているとのことです、機会があればご紹介しますね)


取材/文責:西三・大西